2012年3月29日木曜日

野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 4 病欠率・運動神経の発達状況

〜「野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 12, 3」の続き〜

(以下の内容は、『幼児のための環境教育〜スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」』(岡部翠編 新評論 2007年)のp.6279から抜粋したものです。出版社の了解を得てブログに掲載します。詳しい研究内容と結果・解説については、本をご覧下さい。)


さらにグラーン博士らは、野外保育が子供たちの健康にも良い効果がある事を明らかにした


2つの保育園における年間の平均病欠率を比較したところ、
レーテキャッテン保育園では8スタータレンガン野外保育園では2.4だった。



(表は、日本野外生活推進協会から頂きました。)


この結果に対し博士らは、
室内で過ごす時間が長い程病気が観戦する機会が高くなる事に加え、野外で身体いっぱいに新鮮な空気を吸って本来の生活リズムにあった日々を過ごすことで、ストレスが少なく比較的病気になる事が少ない」という結論を出している。


また、運動神経の発達状況を比較するために、児童心理学療法士による運動神経テストが実施された。
テストには集中力が必要な運動から肉体的に難易度の高い運動までが含まれ、バランス・敏速性・体のコーディネーション能力・柔軟性・腹筋力などが比較された。

その結果、
素早く走って逆戻りするテストでは差が見られなかったが、身体の柔軟性においては、スタータレンガン野外保育園の子供の方がはるかに優れており、握力・幅跳び・腹筋力・バランス力においても同様の結果が出た    


(続きます…)



参照:
森のムッレ教室123456
森のムッレ保育園の園庭 12 ,3456


幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」
幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」

2012年3月26日月曜日

野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 3 遊び方

〜「野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 1, 2」の続き〜

(以下の内容は、『幼児のための環境教育〜スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」』(岡部翠編 新評論 2007年)のp.6279から抜粋したものです。出版社の了解を得てブログに掲載します。詳しい研究内容と結果・解説については、本をご覧下さい。)



園庭比較を行ったグラーン博士は研究発表の中で、スタータレンガン野外保育園の子供の方が遊びの内容が深く、創造性の豊かな遊びをしている」と指摘し、その理由として「遊びの環境の違い」を挙げている。


スタータレンガン野外保育園の遊具はすべて自然の物なので後片付けをする必要がなく、遊んでいた物をそのまま翌日まで残しておける

そして、同じ遊びを気の済むまでしたり、その遊びからさらに内容の深い遊びに発展させたりすることができる

子供の想像次第で園庭が戦場になったり妖精や貞応の世界になったり、ショッピングセンターになったりする。



一方、レーテキャッテン保育園では、外で遊ぶ時間が短いため、仲間同士で役割を決めて何かを演じるといったファンタジーの中の物語をゆっくり発展させるだけの時間がない
近隣の住民に配慮して庭を常に綺麗に保っておかねばならないために、時間内に遊びを終えて片付ける必要があり、遊びの種類も限られたものとなる


グラーン博士はこの時の調査研究から、「遊ぶ環境が子供たちの想像力を高め、遊びの内容をより創造的なものにする」という結論を出している。
つまり、子供たちにとって遊び場そのものは格別に美しい必要はなく、そこでどんな遊びが出来るのかということが最も重要であり、“大人と子供のニーズの違い”を認識する必要がある

また博士は、「多くの大人は、“子供であればどんな環境でも遊ぶ事ができる”という思い込みを持つ傾向があるため、子供たちが野外で遊ぶ事の重要性を認識していないのではないか」と指摘している。


(続きます…)



参照:
森のムッレ教室123456
森のムッレ保育園の園庭 12 ,3456


幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」
幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」

2012年3月24日土曜日

野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 2 園庭のつくり


〜「野外保育園と一般の保育園における園庭の比較研究 1」の続き〜

(以下の内容は、『幼児のための環境教育〜スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」』(岡部翠編 新評論 2007年)のp.6279から抜粋したものです。出版社の了解を得てブログに掲載します。詳しい研究内容と結果・解説については、本をご覧下さい。)


図は日本野外生活推進協会から頂きました。クリックすると拡大できます。)


近代的な庭を持つレーテキャッテン保育園(一般保育園:図左)では…

砂場やブランコ・滑り台・三輪車といった遊具があり、園児だけでなく地域住民も利用できる公共の庭となっていて遊び場や植木・芝生・歩道が整えられていた

木は低い木が2しか無く、少人数で静かに遊びたくともそのための場所がなかった

また、園の先生たちは近隣の住民に配慮して、子供たちに庭で大声を出したり迷惑をかけないように指導し、遊んだ後はきれいに後片付けをするなど庭を常に綺麗に管理することが重視されていた。

子供と先生は午前中の2時間を園庭で過ごし、子供たちが園庭で遊んでいる間は先生は一ヶ所に集まって遠目から子供たちを見守っていた

この園での子供たちの主な遊びは、園庭の舗装された小道を三輪車でグルグル回る事や砂場で遊ぶ事で、三輪車の順番待ちや場所の取合いがしばしば起こってい
(この現象は、まさに我が子が通っていた園で起きていたことを同じだ。参照:子供の遊び場問題点



 一方、スタータレンガン野外保育園の園庭(図右)では…

木々が生い茂り、ブランコや砂場・木にロープを掛けただけの遊具に加え、作業小屋や年少の子のための遊び小屋があり、菜園や実のなる木も植えられ、ニワトリも飼っていた

庭の真ん中辺りからは雑草が伸びて野生の森のようになっており、放課後児童クラブで園を訪れた小学生らがスリルを味わえるような遊びを楽しむために使われていた

庭が広いうえに多様な環境であるため、少人数で静かに遊びたいときも十分に場所を見つける事ができ、場所や遊具の取合いが起きる事も少なかった

また、この園では出来るだけ多くの時間を屋外で過ごし、子供たちが集中して遊べるように遊びを途中で止めさせないよう考慮されていた。

先生は、遊んでいる子を回って話をしたり、庭の手入れをしていた

(続きます…)



参照:
森のムッレ教室123456
森のムッレ保育園の園庭 12 ,3456


幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」
幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」

2012年3月23日金曜日

野外保育園(ムッレ保育園)と一般の保育園における園庭の比較研究 1



これまでに紹介して来たように、ムッレ教室を取り入れた野外保育園では園庭も他の保育園の園庭と異なっている
参照:
森のムッレ教室123456
森のムッレ保育園の園庭 12 ,3456


ムッレ教室を取り入れた野外保育園はこれまで”ムッレ保育園(幼稚園)”としてきましたが、今後は”野外保育園”と表記します。保育園/幼稚園の表記については、こちらをご覧下さい。→Förskolan 


既成の遊具は少なく、先生や保護者が手作りした遊具が多い。それは枝に結ばれたブランコであったり、丸太を組み合わせたアスレチックだったりする。丸太や岩があるだけでも想像力を刺激する素敵な遊具になる。
木は園庭中にまんべんなく植えられており、園庭に程良い日陰を作り、木登りに葉っぱ拾いと様々な遊びを提供している。
また、地面は土がむき出しであったり草が生えていたりと、子供にとって最高のおもちゃである土と水と草が園庭中にある
その他に、菜園やコンポストなど四季に合わせて自然を観察しエコロジーを学べるようになっている。

ここで興味深い研究がある。
1997年にスウェーデンで、園庭環境と教育方針の異なる2つの保育園の比較研究が行われた。
(以下の内容は、『幼児のための環境教育〜スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」』(岡部翠編 新評論 2007年)のp.6279から抜粋したものです。出版社の了解を得てブログに掲載します。詳しい研究内容と結果・解説については、本をご覧下さい。)


その2つの保育園とは、
1ムッレ教室を取り入れており、自然を活かした大きな庭のある野外保育園スタータレンガン野外保育園
2ランドスケープ(景観)デザイナーが作った、近代的で整った庭を持つ都会の保育園レーテキャッテン保育園

研究チームは、
景観計画・環境心理学者のPatrik Grahn氏(パトリック グラーン:スウェーデン農業大学)を筆頭に、農学博士・児童心理学者・児童理学療法士・建築家により組まれた。

この2つの園を選定するにあたっては、遊び場環境以外に差異がないよう考慮された。
具体的には以下のような事が考慮された。
保護者に社会的経済的な差がないこと。
  地域の保護者たちが「最高の幼稚園」評する程人気の高い幼稚園であること。
  先生が大学で教育学を修了していること。
  自治体の保育課職員が「優秀な先生がいる」と評価をしていること。

調査期間は1年間で、研究チームは2園を何度も訪問して子供の状態を観察し、先生にも一年間日記を書いてもらい、分析を行った。
集中力に関する観察を4ヶ月間、運動能力に関するテストを3回、国際的に認められている様式を用いて行われた。


(続きます…)


幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」
幼児のための環境教育―スウェーデンからの贈りもの「森のムッレ教室」

2012年3月5日月曜日

Förskolan(就学前学校)のブログ上表記

このブログではこれまで、スウェーデンで小学校前の子供たちが通う学校 "Förskolan(フォースクーラン)"について、ブログを始めた当初は「保育園」、近年は「幼稚園」と表記してきました。

けれど、今一度説明をし、ブログ上での表記を定めたいと思います。


"Förskolan"(フォー スクーラン)は、活動内容としては日本の保育園に似ています。
けれど、1988年に就学前保育がそれまでの”保育のための場所”から”子どもが学ぶための場所”として見直され、学校教育体系の第一段階として位置づけられたため、組織としては日本の幼稚園に似ています。

スウェーデンではほとんどの親は働いているか大学などで学んでいるので、多くの子どもが1歳から1歳半の間に"Förskolan"などの就学前保育に通い始め、5−6歳まで通います。

"Förskolan"では、年齢の小さい間は保育を重視し、年齢が上がるとともに教育的要素を増やしていきます。

4−6歳児が受ける教育としては、アルファベットの読み書きや数字や簡単な足し算です。
ここでは、遊びや生活の中に文字や数字を組み込んでいく教育が中心です。
一日30分程のサムリング(集会)の時間には、「今日は何日?」「今日は何人登園している?」などを先生と子供たちがやりとりし、数字がかかれた小物を用いて表現します。
園庭や森などで、落ち葉や枝などを用いて数を数えたり足し算引き算の概念を学ぶこともあります。
また、我が子の通っていた園では、一日に1−3人ずつが先生と机に向かい、アルファベットを書く練習をしていました。

写真は、森の中で、子供が見つけた長い枝の長さを「子供何人分か」測っているところ。


スウェーデンでは小学校前の子供たちが通う教育施設としては"Förskolan"の他に、日本の保育ママのような"Daghem(ダーグ ヘム)"や児童館のような"öppen förskolan(ウッペン フォー スクーラン)"がある。

"öppen förskolan(ウッペン フォー スクーラン)"は、親が家庭で子どもを見ている場合に、親子一緒に訪れ、子どもの遊び場所としてや親の情報交換の場として用いる。
多くの子供が1−1.5歳の間に"Förskolan"に通い始めるため、この施設の利用者の大半は赤ちゃんのいる家族。
施設内には専門職員が常駐し、来ている子や親ひとりひとりに声をかけて回り、時には子育ての相談に乗る。活動内容としては、施設内のおもちゃで自由に遊んだり、食事をする。また一日に30分程は、皆で輪になって歌を歌ったりダンスをする。
(参照:父母子

"Daghem(ダーグ ヘム)"については、こちら。→保育ママ



また、6歳になった秋からは、小学校内に設けられた”1年生になる前のクラスとしての "Förskoleklass(フォースコーレクラス:以下、就学前6歳児クラスと表記)"に通うことが出来る。この就学前6歳児クラスでは、勉強や集団生活に慣れていくための活動をする。



こういった事情から日本では、"Förskolan(フォー スクーラン)"を”就学前学校”と表記されていることが多い

けれど、このブログでは、教育に携わっていない方々にも読んでイメージして頂きたいので、"Förskolan"を保育園として表記したいと思います。
また、ムッレ教育を取り入れた"Förskolan"については、これまで「ムッレ幼稚園」と書いてきましたが、今後は「野外保育園」と表記します。